『山河ノスタルジア』ジャ・ジャンクー監督×主演チャオ・タオが語る”映画の背景と今”(前編)

『第63回ヴェネチア国際映画祭』金獅子賞を受賞『長江哀歌』や、『第66回カンヌ国際映画祭』脚本賞に輝いた『罪の手ざわり』など、三大映画祭での受賞後も、精力的に作品を作り続けているジャ・ジャンクー監督。
新作『山河ノスタルジア』は、1999年から2025年にかけての中国とオーストラリアが舞台。離れて暮らしても変わらない母と子の強い愛を、過去・現在・未来という3つの時間を通して描いている。
主演は、チャオ。タオ。

二人での合同記者会見が、開かれ今回の作品へ込めた思いを語っていただいている。前後編2回で特集。

『山河ノスタルジア』
2016年4月からBunkamuraル・シネマほか全国で順次公開
監督・脚本:ジャ・ジャンクー
音楽:半野喜弘
出演:
チャオ・タオ
シルヴィア・チャン
チャン・イー
リャン・ジンドン
ドン・ズージェン
配給:ビターズ・エンド、オフィス北野

2016年4月からBunkamuraル・シネマほか全国で順次公開

1999年、山西省・汾陽<フェンヤン>。小学校教師のタオは、炭鉱で働くリャンズーと実業家のジンシェンの、二人の幼なじみから想いを寄せられていた。やがてタオはジンシェンからのプロポーズを受け、息子・ダオラーを授かる。
2014年。タオはジンシェンと離婚し、一人汾陽で暮らしていた。ある日突然、タオを襲う父親の死。葬儀に出席するため、タオは離れて暮らすダオラーと再会する。タオは、彼がジンシェンと共にオーストラリアに移住することを知ることになる。
2025年、オーストラリア。19歳のダオラーは長い海外生活で中国語が話せなくなっていた。父親と確執がうまれ自らのアイデンティティを見失うなか、中国語教師ミアとの出会いを機に、かすかに記憶する母親の面影を探しはじめる―。

世界三大映画祭すべてで受賞をはたした名匠ジャ・ジャンクー。最新作で描くのは、母と子の愛から浮かび上がる、過去・現在・未来へと変貌する世界と、それでも変わらない市井の人びとの想い。本作は第68回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された。上映後には5分以上にわたりスタンディングオベーションが贈られ、観客はこの一大叙事詩に胸を打たれ、互いに想い合うひたむきな愛の姿に共感の涙を流した。先立って公開された中国やフランスでは、ジャ・ジャンクー作品としては最大のヒットを記録し、世界を大きな感動に包みこんだ。

デビュー作『一瞬の夢』以来、いかなる作品でも市井の人びとと同じ目線に立ち、彼らの営みから“中国のいま”を映し続けてきたジャ・ジャンクー監督。本作は中国が飛躍的に発展を遂げた90年代後半から物語が始まり、初めて未来にまで迫った大胆な野心作だ。経済成長のなかで人びとはより良い生き方を求め、ある者は故郷を去り、ある者はその場に留まる選択をしていく。時代のうねりのなかで翻弄されながら、彷徨い漂泊し続ける人びと。しかし、たとえ変わりゆく中でも、人びとは精一杯に生きている。想いを伝達する手段が大きく変貌した未来でも、技術の進歩ではないものが人の心を繋いでいく。その姿に、我々は希望を見出すに違いない。私たちは知っている。どんなに遠く離れていても、この空はちゃんとつながっているということを。

本作は、過去・現在・未来の3つの時代で映画を構成するという大胆な試みに挑んでいる。1999年パートと2014年パートでは、カメラマンのユー・リクウァイと撮影した当時の映像を挿入し、時代を生きる人々の息遣いが映画に瑞々しい手触りを与えている。さらにジャ・ジャンクー監督作品では初となる、オーストラリアでの撮影を敢行している。

25歳から50歳に至るヒロインのタオを演じたのは、ジャ・ジャンクー作品のミューズであるチャオ・タオ。幼なじみのリャンズー役を演じたのは『プラットホーム』にも出演したリャン・ジンドン。ジンシェン役に起用されたのは、テレビドラマで人気を獲得し、映画への出演が相次ぐチャン・イー。タオの息子ダオラー役は、主演作が相次いで公開される人気急上昇中の若手スター、ドン・ズージェン。そして、ミア役を演じたのは、香港・台湾映画界の大スター、シルヴィア・チャン。ジャ・ジャンクー作品の常連俳優にスター、新鋭を加えた豪華な顔ぶれとなっている。さらに劇中には、ペット・ショップ・ボーイズの「GO WEST」やサリー・イップの「珍重」など当時の流行歌を盛り込み彩りを添えている。そして、本作がジャ・ジャンクー作品の3度目の参加となる半野喜弘の旋律は観る者の郷愁を誘い、深く心に染みわたる。

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